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清掃工場だより5月号

 「柳緑花紅(やなぎはみどり はなはくれない)」という言葉をご存じでしょうか。
 緑萌え、花が咲きほころぶ初夏を思わせる爽やかな語感ですが、禅語の一つで「柳は緑色、花は紅色と、事物には各々個性、特徴があり千差万別ながら、全てこの世に無くてはならない存在であり、尊重しあうことが大事」という意味だそうです。
 私が初めてこの言葉を目にしたのは意外ですが「姿三四郎」という小説。明治の初め、紘道館(モデルは講道館)道場の四天王とうたわれた姿三四郎青年が、柔術諸流の強豪達との勝負を重ね柔道家として成長する様を、強者ゆえの苦悩と共に描いた青春小説です。
 場面は紘道館の代表として負けられない大事な試合の当日。相手は恋人の父親で警視庁の師範を務める柔術家。実力に勝り形勢は有利ながら、自分が勝てば相手は師範の役を追われ、娘である恋人の運命をも変えてしまうことを思い悩み、直前まで試合からの逃避や八百長にまで思いを巡らす三四郎が、たまたま訪ねてきた(訳ありの)男が口にした「柳緑花紅」の言葉で懊悩が心から拭われ、紘道館もなく、父娘の運命もなく、ただ“闘うこと”の一点で意識が充たされ、一心に試合会場への道を急ぐことに…。
 柳は緑色、花は紅色という当たり前のことを「あるべき姿」と受け止め“柔道家の己がなすべきことは闘うこと”という単純にして肝心なことに思い至ったのだと思います。
 禅語の教えからは外れるかもしれませんが、何か悩み事や迷いが生じた時も、三四郎のように柳緑花紅~当り前のこと、あるべき姿~を思うことで、案外道筋や解決の糸口が見つかるような気がします。
(多摩ニュータウン環境組合 事務局長)
 蛇足ですが1960年代に一世を風靡したジャズ&コミックバンド、クレイジーキャッツのヒット曲「学生節」でも柳緑花紅が歌われています。元気が出る良い曲です。